ミズノさんに”まごころ”を聞いてみた

日本を代表するスポーツメーカー、ミズノ株式会社。近年は、スポーツ業界のみならず、多くの企業がスポーツで培ったノウハウを活かした、ミズノ製のユニフォームを導入。サカイ引越センターもその一つです。今回は、ミズノで数々のプロ野球選手の手袋を創り続けてこられた、手袋のスペシャリスト、グローバルイクイップメントプロダクト部 バッグ・手袋企画生産課 担当課長の金光 隆之 さんに、お話を伺いました。

第1回 進化を産み出す力

―よろしくお願いします。まずは、手掛けられている手袋について教えて下さい

スポーツですと、メインは野球とゴルフで、約9割を占めます。新しくスタートしている分野としては、乗馬や競馬ジョッキーの手袋、ビリヤードの手袋にも取り組んでいます。

―一口に手袋といっても様々ですよね?

そうですね。それぞれのスポーツによって、手袋に求められるものが違います。野球やゴルフはいかに滑らないか、“グリップ”に焦点を充ててものづくりをしますが、逆にビリヤードは滑らないといけない。ワーキング手袋においても、本当に多種多様です。
ただ、それぞれ違いはありますが共通して言えることは、どのジャンルであっても、その先に求められているのは“パフォーマンスを上げる手袋を創る”という事です。

その中でも思い出深いのが、スポーツ以外のジャンルで初めて手掛けたパイロットの手袋です。初めて提案させていただいてから、実際にその手袋をはめてのフライトが実現するまでに3年。時間がかかりました。

―どのように進めて行かれたのですか?

まず、実際にどのような手袋が使われているのかを知るため、現物を入手することから始まりました。次に、航空会社へ伺いパイロットが実際にどのような動きをされるのか、手袋にどんなこだわりを持っているのかを伺いました。この、基礎調査にとても時間がかかりました。

実際に何十年も使い続けられているものには必ず「これが当たり前」という固定概念が存在します。そこを崩していくのが非常に難しかった。
新しいアプローチで改善して提案・ヒアリング、改善しては提案・ヒアリングという形で進めていきました。何度も対話を重ねる中で、長時間着用するため、汗をかき、べとべとするといった違和感、ストレスがあるという課題が見えてきた。その課題解決に活かされたのが、野球の手袋で得たノウハウでした。

野球には、グローブの下にはめる守備手袋というのがあります。グローブの中は汗をかくし、蒸れやすいので、速乾性の高い素材を使ったり、カッティングパターンで違和感を解消するように作られています。スポーツで培った技術を活用したことで、今までなかったアプローチで、長時間のフライトでもストレスなく使っていただける手袋を産み出すことができました

―“これが良い”という固定概念をどう解きほぐしていったのですか?

これは僕のこだわりですが、せっかくいただいた提案のチャンスを活かすため、1回のヒアリングに対して、5~6パターンの提案を準備します。プロレベルの選手であれば尚更、その時の感覚やフィーリングを大切にされている。だからこそ、相手の本意を引き出すためには、どんな反応が返ってくるだろうかと事前に推測して、その場で回答・提案できるよう、しっかりと準備して臨んでいます。答えは一つではないですから。

―今まで、想定を超えた反応や意見が返ってきたことは?

僕自身、考えて動くタイプなので、今まではそういったケースはありませんでした。
ただ、もし今後そうなった場合は、真摯に受け止めて、もう一度、提案のチャンスをいただける様に、しっかりと準備をして行こうという気持ちで取り組むしかないですね。

実は僕自身、担当している野球やゴルフの経験はゼロ。もちろんパイロット経験もない。だから「こうあるべき」という考えがそもそもないのです。
ないからこそ、フラットな目線で見ることができるし、当たり前と思われているような「手袋のベルトは必要なのか?」「手袋は指先まで必要か?」など、様々なクエスチョンが出て来ます。
でも、実際に使用されるのはプロです。どんなに僕が良いと思っても、プロ本人が納得していただかないと、使ってもらえない。だからこそ、そのクエスチョン一つ一つに対して、丁寧に検証を重ねます。
「確かにそうだね」と言ってもらえるように。

実は、野球は100年以上の歴史がありますが、野球手袋の歴史は35年位と、まだ歴史が浅い。だからこそ、これからいろいろな形が出てくる、進化していくと思います。
そして、その進化を生み出すのは我々、ミズノがやるべきだと思っています。
これからも、常に視野を広く持ちながら進んでいきたいですね。

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