ミズノさんに”まごころ”を聞いてみた

第2回 プロのものづくりの先にあるものとは

―実際に企画という立場でどのように関わっているのですか?

”企画担当者”と言われると、リサーチを元に「こういう商品を作りたい」という提案するというのが一般的だと思います。
僕の場合ちょっと特殊でして、川上から川下まで、一気通貫で手袋の製作に関わっています。もちろん、専門的な部分は開発担当やデザイナーに頼みますが、この手袋を創るならば、どの部分にどのサプライヤーの素材を使い、どこの工場で組み立てれば、その商品に見合う価格で制作できるのか、というところまでわかるようになってきました。これは経験を積んだおかげです。
商品がお客様の手元に届くまで、しっかりと見届ける事ができる。本当に良いポジションでお仕事をさせていただいていると思います。

―そういった方がミズノには多い?

バット職人や、ゴルフのクラブ職人など、そういうプロフェッショナルはたくさんいますが、企画の立場でものづくりに一気通貫で携わっている人は社内でも珍しいと思います。

―気を付けている事は?

“固定概念を絶対に持たない”ということですね。そのために、必要なのが広い視野と、実際に使用されている現場の情報です。席に座って、パソコンに向き合うのではなく、動き回る。例えばプロ野球のキャンプシーズンは、可能な限りすべてのキャンプ地を回るようにしています。
もう一つは、ものづくりの現場へ足を運ぶ事です。実際に、どのような流れで創られているのかを知る事。これは努力というより、自分が納得した製品を世に出していく上で、欠かすことができないと思っています。

―他社商品に対して悔しいといった感情はあるのでしょうか?

悔しいと言った方が、人間味がありますよね(笑)
ただ実際は、悔しいというよりは、他社で新しいもの、良いものが出てくると、ワクワクしますね。そして、その製品に対して「スポーツメーカー“ミズノ”」として何かできるはず。何ができるのか、という着眼点を常にもっています。
逆に、我々が創ったものにインスパイヤされて、似た商品が出てきたら、真似したくなるくらい良かったのだなという気持ちにはなりますね。

―価格についてはどのように考えていますか?

市場価格は常に足を運んで頭に入れています。2020年からのコロナ禍、昨今の円安で、どんどん物価が上がって行くという状況の中、従来の適正な価格はもはや崩れていると思っています。
確かに僕も、以前は他社がより安価だった時は、さらに安価で良いものを創るという意識もありました。

ただ、コロナ禍を超え、商品の価値が、価格からそのものの質に代わったタイミングだったと思っています。スポーツしたいけれど出来なかったユーザーの募る想いが、より良いものを買いたいという心理に変わって行った。
野球でいうと、ミズノがマーケットリーダー。だからこそ、我々がマーケットを創って行かないといけないという想いがあります。ただ、ユーザーに納得してもらうには。価格が上がったとしても、こんなに良くなったのだと思っていただけるものを創って行かなければならない。
だから今は、価格が他社より頭ひとつ飛び抜けたとしても、それに見合った価値のある製品を創って行きたい。 “品質”という点では、どこにも負けないという自負があります。
積み上げてきた“品質”への信頼に支えられて、手袋カテゴリーは、バブル時代を超えて、2021年、22年と最高売上高を更新することができました。

―情報発信の変化の影響は?

確かに、SNSを含めた情報発信の変化はありますが、それでもやはり、プロって凄いんですよ。
僕は「手袋への一番のこだわりは?」と聞かれたら「プロが使う手袋」と答えます。これは、プロ野球選手自身のパフォーマンスをアップさせるという目的があるからです。でも、その先には必ず、憧れのプロ野球選手が使っている道具を使いたいという子供たちが居るんです。
2023年3月に準決勝メキシコ戦で日本代表の4番村上選手が打った起死回生のヒット。あの姿を見て、村上選手が着けている手袋が欲しいと思った子供たちがどれほどいたのか。それを考えれば、プロ野球選手に対する我々ミズノの品質へのこだわりは、必ず、エンドユーザーさんにも響くのだと思っています。

ちょっと、仕事の話から脱線してもいいですか?

―もちろんです

忘れられない経験がありまして。数年前、伊勢神宮へお参りに行ったんです。参拝の列に並んでいた時、すぐ前に居た小学生くらいのお子さんが、一生懸命お祈りをしていたんです。「神様、ビヨンドマックスとパワーアークが欲しいです」って小さな声が聞こえて。パワーアークって、僕が創っているこの手袋なんです。
そんな風に思ってもらえているのだと、心からやっていてよかったと思いました。

―スポーツはされていたのですか?

僕はずっとテニスをやっていました。手袋とは無縁の競技です(笑)

スポーツが大好きで、大学もスポーツ推薦で進学しました。大学時代は、オーストラリアに留学もしました。小さな頃から、海外で学ぶ機会もあって、様々な国の多様な価値観を共有しながら話をするのが好きだったので、直接自分の言葉で気持ちを伝えたいと思い、英語も、それ以外の言語も勉強しました。
仕事を選ぶときも「スポーツ+語学」がキーワードでした。自分が大好きなスポーツ、そして国を超えた人々とのコミュニケーションができる仕事に就きたいという想いから、ミズノへ入社させてもらいました。
入社したからといって、希望の職に着けるわけではないですが、国内はもちろん、海外の手袋も担当させていただいていて、望んでいた仕事ができている事は、本当に感謝しています。

毎年、工場へ足を運ぶという話をしましたが、やはり、現場で働く方一人ひとりと、直接お話をしたいと思うんです。ですので、インドネシア語と中国語は勉強して、話せるとまでは言えませんが、コミュニケーションはとれるようになりました、完璧な言葉でなくても、お互いに伝え合おうとすることで、通じるものがありますね、

ミズノに対してのイメージは、様々だと思うのですが、やはりその中で圧倒的に「高い品質」というのがあると思います。
私が担当している手袋は、年間200万枚以上生産しています。だから、現場で創っている人にとっては、何万枚分の1。でも、実際に手袋を買ってくださる方にとっては、1分の1。それが全てなんですよね。
そういう事を、手袋を縫ってくれている一人ひとりにも理解してもらいたくて、直接話をしています。先ほどの少年の話や、プロ野球選手の話をしたり。
日々、目先の仕事に追われていると、そこまで想像するのが難しい。現場の方は、自分が創ったものがどうやってユーザーの手に渡っているのか、意外と知らないんです。
だからこそ、一つひとつの手袋に“まごころ”そういう想いを持ってものづくりをしてもらうことが、良い手袋を生み出します。そして、その良い仕事が、子供たちの夢につながって行くのです。
だからこそ、常にコミュニケーションをとって、直接伝えるということを大切にしています。

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