ミズノさんに”まごころ”を聞いてみた

第3回:夢はミズノではじまり、ミズノで終わる

―ところで、なぜそんなに謙虚なんですか?

謙虚ですか?自分を謙虚と思ったことがなかったので、何とも言えないのですが(笑)
持つべきか持たざるべきか、は別として、自分自身がその業界のプロフェッショナルではないという意識があります。野球も、ゴルフも、ワーキングもそう。
だから、まず聞く、そして学ぶ。そこからすべてが始まると思っています。「これが絶対だ」と思ったら、そこで止まってしまうので。
その業界に居なかったという事が、逆に良かったのではないかと思っています。

これは、ゴルフ用の手袋なんですが、よかったらはめてみてください。
ゴルフ用の手袋って、基本的にはものすごく薄く作られるんです。それは、素手に近い感覚を持つため。“素手に勝るものはない”という業界なんです。
陳列されている他社の製品も同じように薄く作られていて“薄い”“最上級”“素手感覚”というのが当たり前になっていました。ゴルフ界において“厚みのある手袋”はタブーとされていた

でも、僕はその定説にすごく疑問を感じたんです。本当に、薄い=最上級なんだろうかと。プロは握力があるので、薄い方が良いというのはその通りだと思います。
でもゴルフで革の手袋を使われている世代は、主に50~70歳代の方が多いんです。今は、合皮なども出て来ていますが、昔は革の手袋が当たり前でした。
ただ、その年代になると握力が低下していく。そんなプレーヤーが薄い手袋で本当にしっかりと握ることができるのだろうかと思ったんです。

そもそも、ゴルフで手袋をはめる目的は、素手よりもしっかりと握るため。そう考えると、握力が弱いプレーヤーは、しっかり握るために、隙間を創らない、少し厚みがある手袋が良いんですよ。
そこで、商品化するだけではなく、なぜ厚みのある手袋が良いのかを、バイヤーにもしっかりと説明をしました。おかげで人気の商品になりました。

今では、他社でも厚手の革を使ったゴルフ手袋が並ぶようになりました。 “厚手の革が良いんです”って。
野球では、ミズノブランドが確立されていますが、残念ながらゴルフではまだまだこれからというポジション。だからこそ、チャレンジングな仕事をさせてもらっていますね。正直、そちらの方が楽しい。
固定概念を崩すのは難しいですが「確かに」という納得が生まれると、それが新しい“当たり前”になってくる。そういうケースは、非常に多いんです。
今を最高だと思ってしまうと、そこで成長は止まってしまいますからね。

同じスポーツの手袋であっても、それぞれ求められているものが全く違います。
だた、根底にはスポーツだったら、野球でもゴルフでも、“遠くに飛ばしたい”というすべてのプレーヤー共通の想いがあるんですよね。その想いに、様々なアプローチで提案をしていきます。

―仕事でしんどいな思うことは?

今は、しんどいと思う事はないですね。常に新しいことにチャレンジできる環境にあるので、15年やっていても、マンネリ化することはないです。
これは本当に感謝しているのですが「もう、好きにやっていいよ」って上司からは言ってもらっています。自分でこうと決めたら、やってしまうタイプなので、上司があきらめたのか、任せて問題ないとおもってもらえたのか、どちらかだと思います(笑)。

―初めから、そんなに自由に?

任せてもらえるようになったのは、2016年だったと思いますね。「好きにやってもいいよ。どうせ好きにやるんでしょ?」って(笑)
野球の手袋からスタートして、3~4年後にはゴルフ手袋のプロジェクトがスタート、そして海外へとチャネルがどんどん増えて、どちらかというといっぱいいっぱいでした。野球人口が減って行く中で、どうやって売り上げをキープするのかという所に頭を悩ませていた時は、やはりしんどかったですね。

実は、2016年は野球の競技人口がマイナスに転じた年なんです。社内では、この状況下だからこそ、新しいカテゴリーにチャレンジしていこうという雰囲気がありました。
バットやゴルフクラブなどは、その競技特有のものですが、手袋はボーダーレスじゃないかと。様々なカテゴリーでミズノの手袋事業を成長させていければ良いと思えるようになった。
経験値が増えてきたことで、視野が広がっていたこともそう思えた要因だと思います。
もうそこからは、新しいチャレンジが楽しくて。で、それが楽しいから、これまで取り組んできていた仕事も相乗効果で楽しくなっていきました。

今、力を入れているワーキングにおいても、安価な軍手ではなく、一双7000円の手袋を使ってもらえるようになるには、どうすれば良いか。そんな考えも、頭の中でぐるぐる回っているんです。
良いワーキング手袋を使うことが、一つのステータスになる。そして、ワーキング手袋の最高峰がミズノプロである、みたいな未来を思い描いています。

実は、僕が2019年に引越した時、サカイ引越センターさんにお願いしたんです。マンションにパンダマークのトラックがズラッと並んでいました。その時、すごく良いなと思ったことがあるんです。
新居への運び込みが終わって「何かお手伝いを」の時間があるじゃないですか。

10分間サービスですね

その時「時間内でできる範囲で構わないので、ベッドの組立をお願いできますか」ってお願いしたんです。そしたら、同じマンション内で作業をされていた方も手伝いに来てくださって、ベッドを最後まで組み立ててくれたんです。とても有難かった。これが“まごころ”か、と思いましたね。
あの瞬間に、お客様、ユーザーさんに、プラスアルファの喜びを感じて欲しいと思いました。

―お仕事をする上でのまごころとは?

年間200万枚以上の手袋をつくっていますが、買ってくださるお客様、ユーザーにとっては、一番の、オンリーワンの手袋なんだということを常に意識しています。
その手袋を手に取ったとき、お客様に笑顔になってもらうには、自分達に何ができるのかということを考え続ける事が、まごころなんじゃないかと思います。

毎年、社内で行われる新商品会議の中で「これは、売れるかどうかわらかない。であれば、商品化は見送ろうか」という言葉が出てくることがあります。
ただ、私の信念として、この仕事でご飯を食べている方がたくさんいる。手袋の製作に関わってくれている方への感謝の想いから、100%採用してもらうという気持ちで臨んでいますし、会議の場でも抗っています。
提案するまで、何度も修正をしてもらって、納得するまで一緒に創り上げた新商品は、これが売れなければ、僕が辞めても良いと思えるくらいまで練りこんだ提案しか出していないので、そう言い切れるのだと思います。

―夢はありますか?

一番の夢は、野球を始める子供たちが、ミズノの手袋から野球をスタートして、野球人生をミズノの手袋で終わる事ですね。途中で、浮気はすると思うんです。海外ブランド格好良いなとか、必ず通る道だと思います。
でも、「やっぱりミズノだよね」って帰ってきてくれる。そういうものづくりをしていきたいと思っていますし、見届けて行きたいです。
そして、大きすぎる夢かもしれませんが、野球だけではなく、ゴルフでも国内No.1の手袋になりたいと思っています。とても、難しいとは思います。思いますが、なれるとは思っています。

―“難しい”と言いつつ楽しそうですね

チャレンジャーというのは楽しいですね。まだまだ、目指す先がある。ナンバーワンをキープするのは大変ですから。チャレンジする上で、ワーキングビジネスも大きな市場になると思っています。
スポーツメーカーであるミズノでしかできないものづくりを、どんどん広げて行きたいと思っています。

―楽しみにしています。有難うございました

有難うございました。

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